1)14:00~
久保田陽二 博士研究員(九大理)
タイトル:溶質荷電に対する水の非線形応答
アブストラクト:
マーカス理論では電子移動反応は溶媒の揺らぎによって駆動されると考えられている.溶媒に対して連続誘電体を用いた計算は広く行なわれていたが,実験に基づく巨視的な誘電率と電場に対する線形応答が仮定されている.イオンの水和エネルギーの計算においても同様であった.しかし微視的なモデルに基づいた水の応答は,溶質イオンの電荷に対して強い非線形性を示す事が分子描像に基づく 理論計算によって示されてきた.ただし溶質の電荷が±eを超えた時に,積分方程式理論とシミュレーションの発表されている結果は定性的に異なっている様に見える.±eより溶質電荷が小さい時は前者では線形応答よりも強い応答,後者では誘電飽和が見られる事が知られている.
我々は分子動力学シミュレーションを行ない,修正エワルド法を用いて溶質イオン位置におけるクーロンポテンシャルを求めた.基本セルのサイズ依存性を調べた結果,上記の違いがシミュレーションの有限サイズ効果に起因するとは考えられない.さらに今回の分子動力学計算の結果は誘電応答挙動に対して新しい描像を与える.非線形性に微細構造があり,また誘電飽和挙動は±2.5eを超えると急に無くなり,線形応答的になる事がわかった.溶質周りの水和殻解析を用いて溶媒和構造の変化に関する議論も行なう予定である.
2)久保田氏の発表終了後15:30頃~
秋山 良 准教授(九大理)
タイトル:探索と食事:同符号巨大生体分子間引力とアメーバーの運動に対する仮説
アブストラクト:
同符号の2つの電荷は反発する。真空中では正しいこの記述も電解質溶液中では必ずしも正しくない。実際、DNAのコイルーグロビュール転移やアクチン分子の会合などで実効引力が観察されている。そして、言うまでもなく生体分子の活躍の場は電解質溶液中である。我々は簡単なモデルを用いて電解質溶液中の同符号巨大剛体球間の引力をHNC-OZ理論を用いて再現した。特に、その引力の電解質濃度依存性が実験結果と同様にリエントラントな挙動をする事を理論的に示した。本ショートセミナーでは、まずこの引力発生のメカニズムを簡単に振り返る。基本的には共有結合と同様のメカニズムで理解する事ができる。そして、その性質が例えばアメーバーの運動にアクチンの繊維形成を通じてどのように関与しているか検討する。時間があれば、どんな研究へ応用が出来るかについても議論したい。
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