概 要 |
生命は長い進化の過程で生物時計を獲得し、時計の発振する概日リズム(約24時間周期のリズム)を指針に、代謝・光合成といった生命活動を昼夜環境サイクルと巧みに同調させている。生物時計の特徴として、①自立的な概日リズムの発振、②光による位相のリセット機構、③周期が温度に依存しないこと(温度補償性)の3つが挙げられる。
シアノバクテリアはこれら3要件を満たす生物時計を備えており、その時計は時計遺伝子群(kai)から発現される3つの時計タンパク質、KaiA, KaiB, KaiCで構成されている。時計の振り子に相当するのが、KaiCであり、KaiAがKaiCのリン酸化を促すのに対し、KaiBはKaiAを抑制することでKaiCの脱リン酸化を促す。
3つのKaiタンパク質とATPを試験管内で混ぜ合わせると、KaiCはリン酸化型と脱リン酸化型の状態間をおよそ24時間の周期で往来する。
近年、KaiCのATPase活性が時計の周期と相関することが見出された。この相関は、ATPaseの反応機構が生物時計の本質(周期を24時間に定める機構)と密接に関わっており、それがタンパク質に内包されていることを示唆する。
また、リン酸化型KaiCに比べて脱リン酸化型KaiCが高いATPase活性を示し、ATPaseはKaiCのリン酸化状態にも大きく影響を受ける。
これらの観察は、「周期を規定するATPase」と「リン酸化」という2つの生化学反応が、KaiCというタンパク質構造の枠組み内でクロストークし、互いに制御しあっていることを示している。
よって、解き明かすべきは、KaiCのATPase活性を「ゆっくり」かつ「安定」に制御する機構、すなわち、リン酸化状態やATP加水分解状態に応じたKaiCの構造変化である。
本発表では、X線小角散乱をはじめとする分光的手法を用いたKaiCの
溶液構造解析について最新の結果を紹介する。
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