概 要 |
量子情報の研究では、一般に光系情報は伝送、固体系情報は計算に有利とされている。光子は本質的に外部との相互作用が希薄であり、情報が失われにくいため情報の長距離伝送に適する。また、もつれ光子対が容易に生成、分離、検出できることから、量子テレポーテーションなどの非局所的なもつれ操作を得意とする。それに比べて、電子や超伝導などの固体系の情報は、外部と相互作用が強いためにコヒーレンスが乱れやすく、また、もつれ対の操作、検出も難しい。しかし、この問題点が解消できれば、固体系量子情報の新たな展開、あるいは量子電子光学的な実験の進展が期待できる。
私たちは、最近固体系量子情報を局所的な制約から解放することに関心をもって研究を行なっている。本講演ではその中で、表面弾性波を用いた単一電子の移送、結合導波路を伝搬する電子の飛行量子ビット、単一光子と単一電子スピンのインターフェースの実験について紹介する。
GaAsのような反転対称性のない化合物半導体結晶には圧電効果があり、交流電圧をかけると結晶の歪の波ができる。この歪波は伝導電子に対しては静電ポテンシャルの波になるので、その波に電子を捉えて運ぶことができる。このことを利用して遠隔ドット間で電子1個を孤立させて移送できることを示す [1]。飛行量子に関しては、結合導波路の片方を伝搬する電子を|0>、他方を伝搬する電子を|1>として量子ビットをつくる。電子は伝搬すると同時に導波路間でトンネルする。これは、丁度、量子ビットのX回転ゲートに相当する。実験では、結合導波路とABリングの結合系を構成し、前者がX回転ゲート、後者はZ回転ゲートとして電圧制御できることを示す [2]。最後に、光子-スピンインタフェースは、量子中継の要素技術と考えられる。私たちは、量子ドットの単一電子スピン検出を基盤技術として、単一円偏光の光子から単一電子スピンへの量子転写の研究を行なっている。その最近の実験として、光生成電子の数識別、角運動量転写について紹介する [3]。
1. S. Hermelin, S. Takada, M.Yamamoto, S. Tarucha, A.D. Wieck, L.
Saminadayar, C.Bäuerle, and T. Meunier, Nature 477, 435 (2011).
2. M. Yamamoto, S. Takada, C. Bäuerle, K. Watanabe, A.D. Wieck, and S.
Tarucha, to appear in Nature Nano.
3. A. Pioda, E. Totoki, H. Kiyama, T. Fujita, G. Allison, T. Asayama, A.
Oiwa, and S. Tarucha, Phys. Rev. Lett. 106, 146804 (2011).
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