分子科学研究所

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第841回分子研コロキウム

演 題 「What do we learn about photosynthetic light harvesting from long-lived electronic coherence?」
日 時 2012年09月27日(木) 16:00
講演者 石崎章仁 若手独立フェロー(特任准教授)(分子科学研究所)
場 所

分子科学研究所 研究棟 201セミナー室

概 要

光合成は光という物理エネルギーを細胞が利用可能な化学エネルギーに変換する分子過程であり、糖の生成を通して地球上のほぼ全ての生命活動を維持している。太陽光の強度が弱い場合には、捕獲された光エネルギーは色素分子の電子励起エネルギーとなりほぼ100%の量子収率で反応中心タンパク質へ輸送され一連の電子移動反応を駆動する。広大な物理空間にありながら、また絶え間ない分子運動と揺らぎの中にありながら電子励起エネルギーはどのようにして反応中心へ迷子にもならず一意的に辿り着けるのだろうか? その驚異的な量子収率の本質的な分子科学的起源の解明には未だ道遠くと言わざるを得ないのではないだろうか。

光合成を行う緑色硫黄細菌に存在するFenna-Matthews-Olson(FMO) 色素タンパク質複合体は光捕集アンテナと反応中心を繋ぐワイヤーの役割を果たしおり、その比較的簡単な構造ゆえに光合成初期過程におけるエネルギー移動を研究するうえでモデル系として広く用いられてきた。このFMO複合体に関して2007年、二次元電子分光法を用いて温度77Kにおいて660フェムト秒以上にも及ぶ励起色素分子間の量子重ね合わせ状態・量子コヒーレンスの存在が示唆された [1]。この寿命は光合成研究において広く使われる既存理論の予測を遥かに上回るものであり、電子量子コヒーレンスの崩壊を防ぐタンパク質環境の様態、高効率エネルギー移動における電子量子コヒーレンスの役割など物理化学・量子情報科学・光生物学などの研究者に興味深い問題を提起した [2]。講演者はこれまで光合成光捕獲系における高効率エネルギー移動の量子力学的機構の解明を目的とした電子励起移動の量子動力学・タンパク質環境のモデル化に関する理論研究を行ってきた[2,3,4]。

講演では分野の現状を紹介するとともに、電子量子コヒーレンスの崩壊を防ぐタンパク質環境の様態・役割について、そして、そこから得られた知見をもとに上記の疑問に関して得られる洞察について議論したい [4]。

References
[1] G. S. Engel et al.,Nature446, 782-786(2007).
[2] A. Ishizaki & G. R. Fleming, Annu. Rev. Condens. Matter Phys.3, 333-361 (2012).
[3] A. Ishizaki, T. R. Calhoun, G. S. Schlau-Cohen & G. R Fleming., Phys. Chem. Chem. Phys.12, 7319-7337 (2010).
[4] Y.-C. Cheng & A. Ishizaki, J. Chem. Phys. To appear in spotlight collections.

お問合せ先

櫻井英博(分子スケールナノサイエンスセンター)(2012年度コロキウム委員)