量子情報処理は、エンタングルド状態などの量子的な振る舞いを利用し、高速なコンピュータや絶対安全な暗号の実現などの強力な情報処理を目的とした研究分野である。原子の電子軌道状態は量子的な状態の典型であり、またイオントラップを用いると、単一もしくは多数の原子を電磁場の摂動のない点に局在させることができる。この技術とレーザー冷却の技術を組み合わせる事で、振動量子基底
状態でイオン鎖を用意する事ができ、それゆえトラップイオンは量子情報処理に用いるqubitとして非常に良い候補という事ができる。
一般に量子状態、特にエンタングルド状態は外乱から強い擾乱(デコヒーレンス)を受ける事が知られている。デコヒーレンスはqubitのもつ情報を壊してしまい、また多数からなる量子系に特徴的な多数個のエンタングルド状態を作るときにもデコヒーレンスが大きな問題となる。それゆえ、状態の保持・生成はデコヒーレンスの影響を受けにくい形で行うのが望ましい。本論文では、外部からの影
響を受けにくい方法として断熱過程を利用した量子状態の制御や量子系のデコヒーレンスの抑制を目的として実験を行った。
まず、共通の外場に結合した2 qubitの固有状態を利用し、量子エンタングルド状態の断熱過程を用いたデコヒーレンス抑制実験を行った。そのための状態生成には、固有状態を直接生成するような新しいプロトコルを提案・実現した。断熱性により、生成された状態のコヒーレンス時間は保護しない場合に比べて約2桁長いものが観測され、この方法によるデコヒーレンスの抑制が実現された。
続いて、誘導ラマン断熱通過法と呼ばれる断熱過程を利用した高精度の量子状態制御手法を用いたエンタングルド状態(半数励起Dicke状態)の生成方法を提案し、実現した。4qubitまでの高忠実度での状態生成に成功し、さらなら多数個化に向けた問題点を評価した。また、生成された状態は新しい 簡便な評価方法を用いて解析した。
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