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理論計算領域・計算科学研究セミナー

演 題 「数理計画問題に基づく結晶構造探索手法:数理結晶化学」
日 時 2025年02月04日(火) 16:00
講演者 小正路 崚太郎 博士(産業技術総合研究所)
場 所

分子研 研究棟201号室

主 催 理論・計算科学分子科学研究領域、計算科学研究センター
共 催 計算物質科学人材育成コンソーシアム(PCoMS)
概 要

無機結晶化学による原子半径や静電的安定性といった定性的・経験的観点に基づく結晶構造の説明を数理計画問題として定式化し、小さな計算コストで最適解として結晶プロトタイプを探索する「数理結晶化学」という枠組みを考案した[1]。全ての原子間相互作用は原子間距離の不等式条件として定義し、全ての拘束条件を満たしつつ単位格子を最小化したものが結晶プロトタイプである。イオン結合だけでなく、アニオン間・カチオン間の反発など原子間相互作用の種類に応じた五種類の拘束条件を導入し、それぞれに対応する最大・最小原子半径を定義する。結晶化学の経験的知見によるとカチオンのイオン半径が大きくなるとアニオンの配位数が増加する傾向にあるが、数理計画問題として定式化する際には各カチオンに配位数の拘束条件を明示的に課す。また、カチオンの正電荷が大きくなると配位多面体の辺や面が共有されなくなる傾向にあるが、カチオン間反発に対応する原子半径により取りうる架橋原子数が自動的に決定される。構造最適化の際は、原子間距離の拘束条件を線型ポテンシャルに近似し、線型ポテンシャルとPΩ 項の和を最小化する問題を解く。この手法を試してみると、銅酸化物超伝導体La2−xSrxCuO4 やYBa2Cu3O7 の結晶構造、鉄系超伝導体LaFeAsO1−xFx の結晶構造、Spinel 構造、α-Pyrochlore 構造、β-pyrochlore 構造、Weberite 構造、Quadruple Perovskite 構造、Pyroxene構造など、多様な結晶構造を最適解として発見することができ、計算条件によっては唯一解となる構造もあった。第一原理計算により得られるエネルギーの局所最適解と比べて、その数が激減することが示せている。
 

参考文献
[1] R. Koshoji and T. Ozaki: Mathematical crystal chemistry: A mathematical programming approach to crystal structures of inorganic compounds, Phys. Rev. Mater., 8, 113801 (2024).

お問合せ先

対応:江原正博、斉藤真司