分子科学研究所

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第993回分子研コロキウム

演 題 「触媒インフォマティクス: 創成期から黄金期へ」
日 時 2026年02月09日(月) 16:00
講演者 髙橋啓介 教授(北海道大学大学院 理学研究院化学部門)
場 所

研究棟301室

概 要

触媒インフォマティクスは、「触媒データベース」、「データから知識を引き出す過程」、および「プラットフォーム」という三つの主要な構成要素から成り立っている¹⁻³。触媒データベースは、ハイスループット実験や第一原理計算による大規模データの取得に加え、既存文献データの体系的な整理・再利用によって構築可能であり、近年その重要性はますます高まっている。知識抽出の過程では、機械学習による物性・性能予測にとどまらず、データマイニング手法やネットワーク解析など、多様な情報科学的手法を柔軟に組み合わせることが有効である。さらに、プラットフォームの観点では、高度なプログラミング技術を必ずしも必要とせず、研究者が容易に触媒インフォマティクスを実践できる環境が整備されつつある。これら三要素が相互に調和することで、触媒インフォマティクスは触媒研究の新たな基盤として機能している。
本講演では、触媒インフォマティクスを駆使したメタン酸化触媒の開発研究を中心に、その考え方と具体的な実践例を紹介する。特に、機械学習の活用に限定せず、機械学習を用いない独自の触媒インフォマティクス手法にも焦点を当てる。触媒元素間の相性を定量的に評価する触媒元素相性診断法、グラフ理論を応用して触媒系全体の構造や関係性を俯瞰する触媒ネットワーク解析法、さらには触媒性能を支配する記述子を効率的に探索するMonteCat法など、従来の枠組みにとらわれないアプローチを紹介する。
加えて、触媒インフォマティクスの概念を計測分野へと拡張した「計測インフォマティクス」の展開についても議論する。具体的には、XAFSスペクトルの自動判別・分類手法や、機械学習と計測データを融合させることで反応中の触媒状態や反応メカニズムの理解を高度化する試みを紹介し、データ駆動型計測が触媒科学にもたらす新たな可能性を示す。
さらに、触媒インフォマティクスが成熟段階に入りつつある現状を踏まえ、AIやロボティクスの導入による今後の展望についても述べる。特に、3Dプリンタを活用した触媒合成装置の開発と実装、ならびに合成・評価・解析を統合した自律実験システムの構築を通じて、触媒化学がどのように変革されつつあるかを概説する。本講演を通じて、触媒インフォマティクスの現在地と将来像を俯瞰し、次世代の触媒研究に向けた新たな指針を提示したい。
 

1) K Takahashi, el.al, ChemCatChem 11 (4), 1146-1152(2019)
2) K Takahashi,et.al, Cheml Comm 59 (16), 2222-2238 (2023)
3) T Taniike, K Takahashi, Nature Catalysis 6 (2), 108-111 (2023).

お問合せ先

杉本 敏樹、岡崎圭一(2025年度コロキウム委員)