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2024/02/27

プレスリリース

国産初「冷却原子(中性原子)方式」量子コンピュータ開発へ 産業界の10社と事業化に向けた連携を開始(大森賢治グループ)

2024年2月27日
自然科学研究機構 分子科学研究所


大森賢治グループ発・冷却原子(中性原子)量子コンピュータの動作イメージ(図:富田隆文)

 自然科学研究機構 分子科学研究所(愛知県岡崎市/所長 渡辺芳人 以下分子研)は、大森賢治教授が主導する研究グループの成果を用いた量子コンピュータ開発を目指して「事業化検討プラットフォーム」(以下当PF)を設立しました。企業や金融機関など10社の参画を得て事業化に向けた活動を始めました。

 当PFへの参画企業はblueqat株式会社(東京都渋谷区)、株式会社日本政策投資銀行(東京都千代田区、DBJ)、富士通株式会社(東京都港区)、株式会社グルーヴノーツ(福岡県福岡市)、浜松ホトニクス株式会社(静岡県浜松市)、株式会社日立製作所(東京都千代田区)、日本電気株式会社 (東京都港区、NEC)など計10社(表記はアルファベット順)です。
 当PFではスタートアップ設立、国産量子コンピュータ開発、量子コンピュータの実用化研究やサービス展開といった事業化にかかわる事項について、参画各社の強みを生かした助言や支援を得る予定です。スタートアップは2024年度中に設立し、「冷却原子(中性原子)方式」の量子コンピュータ開発を始める計画です。

 

背景

 コンピューティング技術の応用領域拡大、人工知能(AI)ブーム、社会課題の複雑化などを背景に膨大な計算量を要する問題が増えており、従来型のコンピュータでは難しい領域で高速計算が可能な量子コンピュータの実用化が期待されています。
 量子コンピュータは世界中で様々な方式による開発競争が進んでいますが、実用化には規模の拡大、計算中に発生するエラーへの対策といった課題があります。これらの課題の克服を期待できる画期的な新方式として近年、急速に世界の産学官で注目が高まっているのが、原子1個1個を量子ビットとして用いる「冷却原子(中性原子)方式」です。なお、室温で動作し冷凍機を必要としない点も冷却原子(中性原子)方式の特長の一つです。
 分子研の大森研究室はこの冷却原子(中性原子)方式の量子コンピュータ開発で世界をリードしています。計算に用いる高品質な「量子ビット」を平面上で多数制御する「光ピンセット」技術と顕微鏡技術、そして超高速レーザーを使って僅か6.5ナノ秒で2つの量子ビット間に「量子もつれ」を生じさせる「超高速2量子ビットゲート」技術など、多数の技術優位やコアコンピタンス※1を有します。
 特に2量子ビットゲートは量子コンピュータの並外れた計算速度の源泉となる重要な中核技術です。大森研究室の超高速2量子ビットゲートは、2022年に従来の冷却原子(中性原子)方式の2量子ビットゲートを一気に2桁加速する非連続的なイノベーションを達成しました。
 これら大森研究室の数々の技術優位とコアコンピタンスを活かして、実用的な量子コンピュータを早期に実現するため、産業界と連携した実機開発、実用化体制を築きます。


2019年に超伝導方式で世界初の量子超越性※2を実現:
カリフォルニア大学サンタバーバラ校
John Martinis教授コメント

 大森研究室は最近、超高速レーザーを用いて中性原子方式の2量子ビットゲートを一気に2桁加速することで、その弱点を克服する大きな革新をもたらしました。彼らは個々の原子量子ビットを操作するための光ピンセット技術や顕微鏡技術でも抜きんでて優れています。
 このように大森研究室は近い将来に実用的な量子コンピュータを実現する極めて有望な候補です。
 私もこれまでの経験を活かして大森研究室による量子コンピュータの実用化と事業化に積極的に関与し、貢献していきたいと考えています。

 Professor Kenji Ohmori and his team have recently made a major breakthrough to overcome the weakness of the neutral atom method by using ultrafast lasers to drastically accelerate its two-qubit gate by two orders of magnitude. Their optical tweezers and microscope technology for manipulating individual atomic qubits is also outstanding.
 The team is therefore an extremely promising candidate for the realization of a practical quantum computer in the near future.
 I would like to actively participate in and contribute to the practical application and commercialization of their quantum computer by making use of my experience.


日本政策投資銀行 業務企画部イノベーション推進室長
事業化検討プラットフォーム 主査
竹森祐樹氏コメント

 日本経済はバブル崩壊後、成長の糸口をつかみ切れないまま「失われた30年」を過ごすことになりました。私は量子コンピュータがインターネット、人工知能(AI)に続き、人類に革命的な進化をもたらす技術になると確信しています。日本にとっては発展・成長の起爆剤として作用する極めて重要な産業になるでしょう。
 大森研究室が誇る技術力は世界の宝であり、日本経済復活の切り札です。本プロジェクトが大きく羽ばたくことを期待します。

 After the bursting of the bubble economy, the Japanese economy spent the "lost 30 years" without a clue to its further growth. I expect that quantum computing will be a technology that will bring revolutionary evolution to mankind, similar to the Internet and artificial intelligence (AI). It will grow into an extremely important industry for Japan, acting as a catalyst for its development and advancement.
 The technological capabilities of Professor Kenji Ohmori and his team are a global treasure and a trump card for the revival of the Japanese economy. I expect that this project will spread its wings far and wide.

 

自然科学研究機構 分子科学研究所
大森賢治教授コメント

 大森研究室の冷却原子(中性原子)型・量子コンピュータ開発のために、このような傑出した企業の皆さまにお力添えいただけることに心より感謝いたします。
 我々は基礎技術には絶対的な自信を持っておりますが、実用的な量子コンピュータの開発には古典エレクトロニクス、ソフトウェア、システムエンジニアリング、システムアーキテクチャなど様々な「実現技術」を結集させる必要があります。
 この事業化検討プラットフォームの立ち上げを契機に開発をより一層強化し、一日でも早く社会に貢献できる量子コンピュータを生み出せるよう邁進いたします。

 I would like to express my sincere gratitude for the support of such distinguished companies for the development of our cold-atom (neutral-atom) quantum computer.
 Although we have absolute confidence in our basic technology, the development of practical quantum computers requires the integration of a variety of “enabling technologies” including conventional electronics, software, system engineering, and architecture.
 With the launch of this commercialization platform, we will further strengthen our development efforts and work hard to create a quantum computer that can contribute to our society as soon as possible.

 


大森量子コンピュータプロジェクトは冷却原子(中性原子)方式量子コンピュータの研究開発で世界をリードしています(撮影:富田隆文)


分子科学研究所・大森賢治グループ・量子コンピュータ開発チーム


※1 コアコンピタンス…競合他社に真似できない核となる技術
※2 量子超越性…スーパーコンピュータをはじめとする従来型のコンピュータでは非常に長い時間を要する何らかの計算を、量子コンピュータで圧倒的に高速に実行すること

 

研究サポート

 本研究は、JSTムーンショット型研究開発事業(JPMJMS2269)、文部科学省 光・量子飛躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP) (JPMXS0120181201)の支援を受けたものです。

 

関連リンク

・大森研究室ホームページ
https://ohmori.ims.ac.jp/

・大森量子プロジェクトホームページ
https://www.ims.ac.jp/research/ohmori_project.html

・ムーンショット型研究開発事業 大森量子コンピュータプロジェクトについて
https://www.jst.go.jp/moonshot/program/goal6/69_ohmori.html
(大森研究室の量子コンピュータ開発は、破壊的イノベーション創出を目指す内閣府の大型研究プログラム「ムーンショット型研究開発制度」に採択されています)

・光・量子飛躍フラグシッププログラム(Q-LEAP)について
https://www.jst.go.jp/stpp/q-leap/#
(大森研究室の量子情報処理技術開発は、経済・社会的な重要課題に対し、量子科学技術(光・量子技術)を駆使して、非連続的な解決(Quantum leap)を目指す文部科学省の研究開発プログラム「光・量子飛躍フラグシッププログラム(Q-LEAP)」に採択されています)

 

本件に関するお問合せ先 

自然科学研究機構 分子科学研究所
研究力強化戦略室 広報担当
TEL:0564-55-7209

自然科学研究機構 分子科学研究所
光分子科学研究領域 大森研究室
E-mail:igami_at_ims.ac.jp/fujikawa-t_at_ims.ac.jp/ohmori_at_ims.ac.jp
(_at_は@に変換してください。)
伊神、藤川、大森