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「近接場分光イメージングの新手法の開拓とナノ物質の局所励起と波動関数の研究」(井村考平助手)
ナノ物質に固有の光学的・電子的な性質を解明し設計・制御するには,その励起状態の時間的・空間的な特性を理解することが不可欠である。井村助教は,光の回折限界の制限を受けない高い空間分解能で分光測定を実現するために,近接場光学を基礎とする空間・時間分解分光イメージングの新手法を開発し,ナノメートルスケールの空間分解能でナノ物質の性質の理解と制御を可能とする革新的な物理化学研究手法を確立した。さらにこれらを用いて,特に貴金属微粒子系のプラズモン共鳴を対象とした研究を行ない,プラズモンの波動関数の空間形状 や表面増強分光の機構を解明した。井村助教の研究成果は,大きく分けて以下の3つになる。
1.非線形・時間分解近接場分光装置の開発
高い空間分解能をもつ近接場光学顕微分光はナノ物質の励起状態の特性解明に有効であるが,分子分光法で蓄積されてきた非線形分光・時間分解分光の技術を取り入れることで,更に強力な手段となる。井村助教は空間分解能50nm,時間分解能100fsを同時に実現する時間分解近接場分光装置を開発し,またその装置に よって近接場二光子励起測定が可能であることを示した。
2.貴金属ナノ微粒子におけるプラズモンの波動関数イメージング
直径数nmから数百nmの貴金属微粒子では,電磁場に応答する自由電子の集団運動(局在プラズモン共鳴)が光学特性を支配する起源となっている。プラズモン共鳴状態の波動関数の空間特性とその動的挙動,また局在光電場の空間分布の解明は,金属微粒子の性質の理解に不可欠である。しかしそれには,光の回折限界 を超える空間分解能が要求される。
井村助教は,まず棒状微粒子である貴金属ナノロッドの近接場透過イメージング分光を行った。ナノロッドの透過像では,ロッドの長軸方向に規則的に明暗を繰り返す空間振動構造が見られ,それがプラズモン波動関数の空間構造を光学的に直接観察したものとなっていることを実証した。また井村助教は,近接場によるパルス光照射で,単一金微粒子およびその集合体が効率良く二光子励起発光を起こすことを見いだし,それを用いて近接場二光子励起によるプラズモン波動関数を,高いコントラスト比で可視化することに成功した。さらに,金ナノロッドのフェムト秒時間分解イメージング測定を行い,光励起に伴うプラズモン波動関数の動的な変化をとらえることにも成功した。
これらの研究により,井村氏はナノ物質の励起状態の波動関数を光学的に直接観測する手法を確立した。これはナノ物質の物理化学研究に新しい次元を開くも のであり,将来の発展に大きな影響を与えうる重要な成果である。
3.貴金属ナノ微粒子集合体における局所光電場と表面増強分光の機構
単一分子レベルの検出感度を持つ表面増強ラマン散乱(SERS)の発現機構として,金属微粒子の会合体において微粒子間の間隙に局所的に生じる強い光電場がその主要な起源と考えられている。しかし従来は,局所的な増強電場を実験的に直接観察した例はなく,実際にSERSの起源であるかどうかは明らかではなかった。
井村助教は,前述の近接場二光子誘起発光イメージングを金微粒子の会合体における光電場分布の観測に適用した。その結果,実際に間隙に局所的な電場増強があることを明らかにし,さらに近接場ラマン散乱像を併用することで,微粒子間隙で極めて大きなラマン増強度が得られることを示した。すなわち,金属微粒子会合体における局所電場増強とそれに起因するSERSの機構を,初めて実験的に実証することに成功した。
以上のように,井村助教は近接場分光を基礎とした革新的研究により,局所光電場や波動関数の可視化といった,従来の研究手法では考えられない直接観察を可能とした。これらの研究成果は,ナノ物質の物理化学・分光学の基礎としてばかりでなく,導波路や高感度センサー等へのプラズモンの様々な応用にも広く波 及しうるものである。
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