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二次元高分子の合成に新展開(江グループ)
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二次元高分子の合成に新展開(江グループ)
[研究の背景]
二次元高分子は、規則正しいポア構造を有する共有結合性高分子で、積層することによって一次元チャンネル構造を形成します。原理的に分子一層が一枚の原子シートを提供することができ、新しい合成高分子として大いに注目されています。軽い元素を共有結合で連結して分子骨格を成し遂げているため、軽くて丈夫という特徴が魅力的です。また、ポアサイズは一義的に分子構造によって決定され、分子設計により思い通りの細孔をつくりあげることができます。従来の多孔構造とは異なり、設計可能な新しい多孔性物質として期待されます。
分子科学研究所の江グループでは、二次元高分子にπ電子系を導入することで、新しいπ電子系二次元高分子の合成を世界に先駆けて行ってきました。これまでにπ電子系分子としてトリフェニレンやピレン、アントラセンなどの共役炭化水素化合物が用いられました*1,2)。光エネルギー利用の観点から、これらの分子は光吸収波長が紫外部に限定されてしまい、幅広い波長領域の光を吸収可能な分子構造が必要不可欠です。
[研究の成果]
今回、研究グループは、18π電子を有する大環状ポルフィリンやフタロシアニンからなる二次元高分子を合成しました。ポルフィリンとその類似体は代表的な色素分子で、生体内では酸素運搬・貯蔵タンパクであるヘモグロビンやミオグロビンをはじめ、チチトクロームP-450酵素、植物やバクテリアにおける光捕集アンテナ系や光合成などの活性中心を担っています。一方、フタロシアニンは伝統的な顔料であり、近赤外領域に大きな吸収極大を持ちます。研究グループは、これらの大環状π分子を共有結合で二次元高分子骨格に織り込み、紫外から近赤外まで幅広い波長領域での光吸収を可能にし、さらに、極めて高い光伝導性を誘起できることを見いだしました。
ポロフィリンからなる二次元高分子はキューブ状構造を与えます(図1)。反応時間を調整することによって、サイズをコントロールしてキューブをつくることができます。興味深いことに、キューブサイズが大きくなるにつれて、表面積やポア容積が次第に大きくなることが分かりました。これは、高分子の高次構造を制御することができることを意味し、二次元高分子の精密合成という新しい局面を開くものです3)。
図1 ポルフィリンからなる二次元高分子及び積層によって形成された共有結合性有機骨格構造。
図中、青はポルフィリン環の炭素原子、白は水素原子、黄色は窒素原子、緑色は亜鉛などの金属原子を示します。
一方、モノマーとしてフタロシアニンを用い、縮合反応により二次元高分子を合成しました(図2)。フタロシアニンはお互いに真上に来るようにスタックしているため、構造内ではあらかじめフタロシアニンからなるキャリア移動路が形成されています。実際、フタロシアニン二次元高分子はなんと、1.6
図2 フタロシアニンからなる二次元高分子及び積層構造。
図中、水色はフタロシアニンの炭素原子、紫色は窒素原子、白は水素原子、緑色ニッケルなどの金属原子を示します。
電子を流せるn型有機物は種類が限られた上、安定性において大きな問題が抱えております。そこで、二次元骨格のエッジ部位に電子吸引性分子を導入することで、新規なn型二次元高分子の合成に成功しました(図3)。この二次元高分子は熱的に極めて安定で、400℃でも分解することなく構造を保つことができます。πスタックによりカラム構造が形成され、高い電子移動度(0.6
図3 n型二次元高分子及び積層構造。
図中、水色はフタロシアニンの炭素原子、紫色はベンゼン環、青色は窒素原子、黄色はイオウ原子、緑色はニッケルなどの金属原子を示します。
[今後の展開及びこの研究の社会的意義]
幅広い波長領域を吸収することが可能で、高いキャリア移動度を兼備する二次元高分子は光エネルギー変換、特に、太陽電池の新しい材料として期待されます。特に、πスタックによって形成された積層構造を電極基板上に転写することができれば、新しい構成を有する太陽電池の構築が可能となり、効率的な光エネルギー変換システムの実現に繋がると期待できます。
[参考文献及び論文情報]
1) A Belt-Shaped, Blue Luminescent and Semiconducting Covalent Organic Framework
Shun Wan, Jia Guo, Jangbae Kim, Hyotcherl Ihee, Donglin Jiang
Angew. Chem., Int. Ed. 47, 8826-8830 (2008).
2) A Photoconductive Covalent Organic Framework: Self-Condensed Arene Cubes with Eclipsed 2D Polypyrene Sheets for Photocurrent Generation
Shun Wan, Jia Guo, Jangbae Kim, Hyotcherl Ihee, Donglin Jiang
Angew. Chem., Int. Ed. 48, 5439-5442 (2009).
3) Control of Macroscopic Structures and Pore Parameters
Xiao Feng, Long Chen, Yuping Dong and Donglin Jiang
Chem. Commun. 47, 1979-1981 (2011).
Synthesis of Metallophthalocyanine Covalent Organic Frameworks That Exhibit High Carrier Mobility and Photoconductivity
4) Xuesong Ding, Jia Guo, Xiao Feng, Yoshihito Honsho, Jingdong Guo, Shu Seki, Phornphimon Maitarad, Akinori Saeki, Shigeru Nagase and Donglin Jiang
Angew. Chem., Int. Ed. 50, 1289-1293 (2011).
5) An n-Channel Two-Dimensional Covalent Organic Framework
Xuesong Ding, Long Chen, Yoshihito Honsho, Xiao Feng, Oraphan Saengsawang, Jingdong Guo, Akinori Saeki, Shu Seki, Stefan Irle, Shigeru Nagase, Parasuk Vudhichai and Donglin Jiang
J. Am. Chem. Soc. 133, DOI: 10.1021/ja2052396 (2011).
■研究グループ
本研究は、自然科学研究機構 分子科学研究所・江グループ(江 東林准教授)の研究により行われました。
■研究に関するお問い合わせ先
江 東林(ちゃん どんりん)
自然科学研究機構・分子科学研究所・分子機能研究部門 准教授
TEL:0564-59-5520
E-mail:jiang@ims.ac.jp(送信時には@を半角にしてください)