分子科学研究所

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2013/05/13

プレスリリース

有機太陽電池をシリコン太陽電池と同じドーピングのみで製作することに初めて成功(平本グループ)

[ポイント]

●有機太陽電池は、商品化が直近ですが、現在のシリコン太陽電池のように、微量な不純物の添加(ドーピング)のみで自由に設計製作できない技術的に未熟な点がありました。
●今回、有機太陽電池に必ず用いられる共蒸着膜中に、シリコンと同じドーピングのみで、有機太陽電池を作り込むことに、世界で初めて成功しました。
●これは、シリコン太陽電池のレベルに、有機太陽電池がようやく達したことを意味し、今後、様々な有機半導体共蒸着膜に適用して効率の飛躍的向上が期待できます。

[概要]

自然科学研究機構分子科学研究所の平本昌宏教授、総合研究大学院大学物理科学研究科博士課程学生の石山仁大氏らは、シリコン太陽電池と同様の、不純物の微量添加(ドーピング)のみによって有機太陽電池を作製することに世界で初めて成功しました。
従来の有機太陽電池は、電池内部のエネルギー構造を自由に設計製作する技術が未熟で、シリコンのように、ドーピングのみによって、セルのエネルギー構造を設計する方法の開発が望まれていました。
本研究グループは、有機太陽電池に必ず用いられる、2つの有機半導体を混合した共蒸着膜中に、ドーピングのみで、電気出力発生のもととなるエネルギー構造 を自由に設計して作り込む方法を開発し、この方法で作製した2つの有機太陽電池を連結したタンデム型電池が、実際に高い変換効率を示すことを、世界で初め て示しました。
これは、シリコン太陽電池のレベルに、有機太陽電池が達したことを意味し、様々な共蒸着膜材料に適用すれば効率の飛躍的向上が期待されます。
本研究は、JSTの戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)の一環として行われました。
本研究成果は、欧州の有機エレクトロニクス専門の科学誌「Organic Electronics」の5月8日付け(オンライン版)に掲載されました。

[研究の背景と経緯]

有機太陽電池は、非常に低コスト、軽く、フレキシブル、カラフルという特性があります。生活にとけこんだカラーデ ザインで透明にもできる、有機太陽電池シートのサンプル出荷が本年夏に予定され、商品化が直近です。屋根、壁、窓、自動車、ありとあらゆる場所に簡単に印 刷・貼付け・ラッピング・塗布して、身近な社会全体に普及することが期待されています。この有機材料に特有の長所をもった太陽電池は、エネルギー問題解決 の一翼を担う、次世代の太陽電池として産業的な応用が進みつつあります。
 シリコン無機太陽電池では、微量の不純物添加(ドーピング)によるセル設計製作が当たり前ですが、有機太陽電池は、そのようなセル設計ができる以前の未熟な状態が続いていました。

その弱点を克服するために、本グループは、すでに、代表的な有機半導体のフラーレン(C60)とフタロシアニン(H2Pc)のドーピング技術を開発し(分子研プレスリリース2011年3月1日)、ドーピングによるpn制御(注1)が全ての有機半導体で可能なことを示しました(分子研プレスリリース2012年9月7日)。さらに、有機太陽電池の核心部分となる、2つの有機半導体を混合した共蒸着膜を、p型、絶縁体(i)型、n型と自由にコントロールすることにも成功しました(分子研プレスリリース2011年9月16日)。これらの成果から、有機共蒸着膜の中に、シリコン太陽電池と同じ、pn接合やpin接合を作製して、セル設計を行う可能性が見えてきました。

[研究の内容]

研究グループの、総研大博士課程の石山仁大氏は、フラーレン分子(C60)とセキシチオフェン(6T)の共蒸着膜中に、ドーピングのみで、2つの太陽電池を連結したタンデム型有機太陽電池を作り込むことに成功しました。
共蒸着膜は、有機太陽電池に必ず用いられます。今回の成果は、2つの有機半導体を混合した共蒸着膜を1つの有機半導体としてみなしてドーピングするとい う、これまでに全く例のないアイデアに基づいて有機太陽電池を作製した、世界初の例です。他の有機半導体を組み合わせた共蒸着膜中にも、この新しいタイプ のセルが作り込めることも確認しました。

図1に、今回作製したセルの構造を示します。1つのセルは、p+in+構造を持ちます(ここで、p+はMoO3を高濃度(50,000 ppm)ドーピングした層、iはドーピングのない絶縁層、n+はCs2CO3を高濃度(50,000 ppm)ドーピングした層を意味)。フロントセルとバックセルの2つのセルは、n+p+オーミック中間層で接続されています。n+p+層 は、ドーピングを高濃度で行うことで、電子のトンネリングを利用して2つのセルを電気的に接続(オーミック接続)することができます。この技術も今回初め て開発されたものです。なお、ドーピングは、2つの有機半導体とドーパントの3つを同時に蒸着する3元蒸着法(図2)により行い、PC制御によって、ドー パント濃度をppm(100万分の1)の極微量の精密さで制御しました。

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図1 今回作製したタンデムセルの構造。有機薄膜はすべて、フラーレン(C60)とセキシチオフェン(6T)の2種類の有機半導体を共蒸着した均一な膜でできている。このC60:6T共蒸着膜にドーピングのみでセルを作り込んだ。1つのセルは、p+in+構造を持ち、フロントセルとバックセルの2つのセルは、n+p+トンネルオーミック中間層で電気的に接続されている。下は、作製した有機太陽電池の写真。

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図2 3元蒸着の模式図とセル作製用の蒸着装置の内部の写真。2つの有機半導体からなる共蒸着膜にドーピングを行うには、有機半導体用の2つとドーパント用、合計3つの蒸着源と3つの蒸着速度モニター用膜厚計が必要である。

図3に、2つの太陽電池を連結したタンデムセルと、1つの太陽電池のみのシングルセル の性能を比較して示しました。横軸が電圧で、縦軸が太陽光によって発生した電流を表しています。タンデムセルではシングルセルに比べて、得られる電圧が2 倍の1.7 Vに達しています。全く新しいタイプのセルにもかかわらず、かなり良い効率2.4%が得られています。
これは、ドーピングのみで、同一の均一な共蒸着膜中に、シングルセル、タンデムセルを直接作り込んだ世界初の例です。なお、フラーレンC60の単独膜についても、同じ方法でシングル、タンデムセルを作製できることも確認しています。

このセル全体のエネルギー構造(図4)を、ケルビン振動容量法(注2)に より直接マッピングすることにも成功しました。タンデムセルでは、フロントセルとバックセル両方で太陽光が吸収され、それぞれ光電流と光電圧を発生しま す。2つのセルの中間にあるオーミックトンネル接合で、トンネリングによってセルを電気的に連結し、2倍の光電圧を得ます。このような、エネルギー構造を ドーピングのみによって自在に制御し、マッピングすることも今回初めてできるようになったことです。

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図3 今回作製したタンデムセルの電流—電圧特性と性能パラメータ(光電流、光電圧、曲線因子、効率)。シングル セルの特性も比較のため示してある。タンデムセルではシングルセルに比べて、得られる電圧が2倍の1.7 Vに達し、全く新しいタイプのセルにもかかわらず、かなり良い効率2.4%が得られている。

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図4 このセル全体のエネルギー構造。縦軸がエネルギーで、横軸はセルの膜厚に相当する。このエネルギー図は、共 蒸着膜と金属電極でコンデンサを形成して電位差を計測するケルビン振動容量法によって、エネルギーを実測しながら、太陽電池の膜を積層していくことでマッ ピングされた。このような、エネルギー構造がマッピングできることは、シリコン太陽電池と同じセル設計が、有機太陽電池でもできるようになったことを意味 する。

今後の展開

今回の結果は、2つの有機半導体から成る、均一な共蒸着膜を、ドーピングのみによって、有機太陽電池を作製した世界初の例です。これは、ドーピング のみで作られるシリコン太陽電池のレベルに、有機太陽電池がようやく肩を並べたことを意味します。有機半導体は、2つの有機半導体を混合した膜を必ず用い るため、今後、様々な有機半導体を組み合わせた共蒸着膜へ、今回開発した方法を適用していけば、効率の飛躍的向上が期待できます。今後、実用化レベルの 10-15%の効率を目指します。

用語解説

注1)ドーピングによるpn制御

無機系(シリコン)半導体では、シリコンSi結晶中にリンPがドープされたn型半導体と、シリコンSi結晶中にホウ素Bがドープされたp型半導体のpn制御ができる。

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有機半導体でも、有機半導体分子間にドーピング剤(ドーパント)を導入することにより、n型とp型の制御ができることが、私たちの研究で、すでに分かっています。今回は、共蒸着膜をn型化するドナー性のドーピング剤として炭酸セシウム(Cs2CO3)、アクセプター性のドーピング剤として酸化モリブデン(MoO3)を用いました。

注2)ケルビン振動容量法

サンプルと金属電極でコンデンサを形成して、電位差を計測することで、サンプルのエネルギーを直接求めることができる方法。図4のタンデムセルのエネルギー図は、エネルギーを実測しながら、太陽電池の膜を積層していくことでマッピングされた。

論文情報

掲載誌 : Organic Electronics(欧州のElsevier社の発行する有機エレクトロニクスの専門誌)
論文タイトル : Tandem organic solar cells formed in co-deposited films by doping
(ドーピングによって共蒸着膜中に作り込まれたタンデム型有機太陽電池)
著者 : Norihiro Ishiyama, Masayuki Kubo, Toshihiko Kaji, and Masahiro Hiramoto
掲載日:2013年5月8日(オンライン掲載)
https://dx.doi.org/10.1016/j.orgel.2013.04.003

研究グループ

本研究は、自然科学研究機構分子科学研究所の平本昌宏教授、石山仁大総研大博士課程学生により行われました。

研究サポート

本研究は、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(CREST)(研究領域名「太陽光を利用した独創的クリーンエネルギー生成技術の創出」、研究統括:山口真史(豊田工業大学大学院教授))の一環として行われました。

研究に関するお問い合わせ先

平本昌宏(ヒラモトマサヒロ)
自然科学研究機構 分子科学研究所 教授
〒 444-8787 愛知県岡崎市明大寺町東山5−1
Tel:0564-59-5537 Fax:0564-59-5537 E-mail:hiramoto@ims.ac.jp