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共役二次元高分子の合成と有機半導体への応用に成功(江グループ)
お知らせ詳細
共役二次元高分子の合成と有機半導体への応用に成功(江グループ)
[概要]
自然科学研究機構分子科学研究所の江東林(ちゃん どんりん)准教授らの研究グループは、共役二次元高分子を化学的に合成し、高速キャリア移動を可能とする新奇な有機半導体の開拓に成功しました。
共役高分子からなる有機半導体は、センサーや発光材料、光電変換などの分野で広く応用され、極めて重要な役割を担う先進機能材料の一つです。通常の共役 高分子は複雑に絡み合った状態のため、高速のキャリア移動や効率的な電荷分離は実現できません。半導体特性を向上するためには、分子鎖の配列まで制御した 共役高分子をつくることが極めて重要ですが、これまでの高分子合成の手法ではほぼ不可能でした。
研究グループは、フェナジンと呼ばれる有機化合物で連結した共役二次元高分子を、縮合反応を利用して合成しました。共役二次元高分子は、二次元的に広 がった多孔性高分子シートを有し、積層することにより高い結晶性を持つ共役有機骨格構造体を形成します。この共役高分子は、シート内における周期的な構造 およびシート間における規則正しい積層を有するため、高度な分子配列を有する有機半導体となります。すなわち、三次元的に周期構造を有する共役高分子の合 成が可能となりました。今回合成した共役二次元高分子は、4.2 cm2V-1s-1という類のない高いキャリア移動度を示しました。さらに、細孔に電子アクセプターを導入することにより、ドナー・アクセプターからなる 電荷分離システムを構築することができます。この場合、ドナーとアクセプターが独立した二相連続構造を形成し、電荷分離を実現することができます。例え ば、共役二次元高分子からなる光スイッチは、優れた光伝導性を有し、かつ1000万:1という極めて高いオン/オフ比を示しました。共役二次元高分子を用 いて太陽電池を作成することも可能であり、光電変換への応用も期待できます。
本成果は、英国ネーチャーグループが発行するオンライン限定の学際的ネーチャー姉妹誌「ネーチャー・コミュニケーションズ」に11月13日に掲載されました。
[研究の背景]
共役高分子は広がったπ電子系を持ち、発光材料、センサー、光電変換などに広く応用されています。共役高分子が有 機半導体として高い機能を発揮するためには、いかに高い分子秩序をつくり出すかがキーポイントとなります。高分子鎖は容易に会合し、秩序を持って配列させ ることは容易ではありません。これまで、秩序ある配列を作り出すために、自己組織化や液晶など様々なアプローチが検討されてきました。しかしながら、周期 的な分子構造をもたないため、根本的には解決されていないのが現状です。
分子科学研究所の江グループでは、二次元高分子の合成と機能開拓の研究を行っています。二次元高分子は、積層することによって一次元の微細な穴を有する 多孔性有機骨格構造体を形成します。これまでに、二次元高分子にπ電子系を導入することで、新奇なπ電子系二次元高分子の合成を世界に先駆けて行ってきま した。最近では、二次元高分子を用いて、光捕集機能、ホールや電子伝導機能、光伝導機能、ガス吸着機能、センシング機能などを見いだし、従来の高分子には ない特異な機能を開拓してきました。
[研究成果]
研究グループは、二次元高分子の構築に縮合反応(注1)を用いることで、フェナジン(注2)と呼ばれる化合物で連 結した共役二次元高分子を、高収率で得ることに成功しました(図1)。この二次元高分子は、共役鎖が高度に配列されており、周期的な構造を持ちます。シー ト内では、周期的な鎖構造および規則正しい細孔を有します。二次元高分子は積層することで、高い結晶性を有する有機骨格構造体を形成し、骨格全体にわたっ て周期的な秩序をもたらします(図2)。これは、これまでの共役高分子にはない特異な配列構造で、一次構造から高次構造まで完全に制御した共役高分子の初 めての合成例です。
図1. フェナジンで連結した共役二次元高分子の骨格構造(赤は窒素、灰色は炭素)
周期的な配列構造は電荷キャリアの移動経路を提供し、高速移動を可能とします。実際、この共役高分子は4.2 cm2V-1s-1という極めて高いホール移動度を示しました。これは、今までに報告されている二次元高分子の中でトップクラスのキャリア移動度です。
今回合成した二次元高分子の細孔に、電子アクセプター(注3)としてフラーレンを導入することで、二次元高分子とフラーレンからなる電子ドナー・アクセ プター(注3)電荷分離システムを構築することができました。この電荷分離システムは、高い光伝導性を示し、可視光を照射すると極めて大きな光電流を生み 出します。二次元高分子からなる光伝導性スイッチは、1000万:1という極めて高いオン/オフ比を示しました。これは、電子ドナーとアクセプターがそれ ぞれ独立した二相構造が形成され、かつ連続して周期的に配列した究極の接合システムをつくり出しているためです(図2)。さらに、スピンコーティングで薄 膜を作製し、光電変換機能を検討したところ、0.98 Vという高い開放電圧(注4)を示しました。今後、デバイス構造を最適化することにより、効率的な光電変換が期待できます。
図2. 共役二次元高分子の積層構造(CS-COF)、および、細孔にフラーレンアクセプターを内包した電子ドナー・アクセプター分子システム(CS-COF C60)
今回合成した共役二次元高分子では、共役鎖は規則正しく配列しており、キャリア移動の経路が予め用意されています。これに対して、従来の共役高分子 は、秩序構造を持たないため、キャリア移動が複雑になり、キャリアが容易にトラップされてしまいます。今回の結果は、二次元高分子という特異な共役鎖を利 用することにより、複雑な分子会合をなくし、三次元的に周期構造をもたらすことを可能としたものです。つまり、最大限のキャリア移動を可能とする特異な配 列構造のデザインが実験的に可能になったことを示しています。
[今後の展開]
今回開拓された周期的な構造を有する共役高分子は、高速キャリア移動を可能にし、かつ極めて高い光伝導性をもたらすものです。このように配列構造が完全に制御された共役二次元高分子は、その他にも様々な応用が期待されます。
[用語解説]
(注1)縮合反応
2つの官能基からそれぞれ一部分が結合して分子を形成して脱離し、同時に残った部分同士で結合が生じ、新しい官能基が生成する反応。
(注2)フェナジン
2つのベンゼン環が中央のピラジン環とそれぞれ1つの炭素—炭素結合を共有して連結した構造を持った分子。
(注3)電子ドナー、電子アクセプター
電子を与えるものを電子ドナー、電子を受け取るものを電子アクセプターと呼ぶ。
(注4)開放電圧
抵抗を何もつないでいない時に、電池の正極と負極との間の電位差のこと。太陽電池が生じさせうる電圧の最大値を示す目安となる。
論文情報
掲載誌:Nature Communications
論文タイトル:Conjugated organic framework with three-dimensionally ordered stable structure and delocalized π clouds
(三次元周期安定構造及び広がったπ電子雲を有する共役有機構造体)
著者:Jia Guo, Yanhong Xu, Shangbin Jin, Long Chen, Toshihiko Kaji, Yoshihito Honsho, Matthew A. Addicoat, Jangbae Kim, Akinori Saeki, Hyotcherl Ihee, Shu Seki, Stephan Irle, Masahiro Hiramoto, Jia Gao, Donglin Jiang
掲載日:2013年11月13日(オンライン掲載)DOI: 10.1038/ncomms3736
研究グループ
本研究は、自然科学研究機構 分子科学研究所・江グループ(江 東林准教授)、同研究所・平本昌宏グループ、大阪大学・関 修平グループ、名古屋大学・Irle Stephanグループ、KAIST・Hyotcherl Ihee教授の共同研究により行われました。
研究サポート
本研究は、主に科学研究費助成金・基盤A「共役多孔性高分子による特異分子空間の創出と機能開拓」(研究代表者:江 東林准教授)の一環として行われました。
研究に関するお問い合わせ先
江 東林(ちゃん どんりん)
自然科学研究機構・分子科学研究所・分子機能研究領域 准教授
TEL:0564-59-5520
E-mail:jiang(@)ims.ac.jp